雪の朝、有馬で目が覚めた
有馬ふたたび。
日帰りで行ける距離なのに、今回は「一泊」になりました。
理由は単純で、友人から会員制ホテルの優待券をいただいたから。会員制とはいえ、空きのある日は一般でも宿泊できることがある――そんな“少しだけ特別”な入口を、ありがたくくぐらせてもらいました。
旅の目的は、観光の達成でも、がんばって整えることでもなく。
ただ「時間をほどく」こと。
そしてその翌朝、カーテンを開けたら、世界が白くなっていました。
昨日の夕方、蕎麦を食べてホテルに戻るころ、雪はちらほら舞っていたけれど、
まさか積もるとは思っていなかった・・・
うちは海側なので、雪が降っても積もることはほとんどありません。
山を越えただけで、こんなにも景色が変わるのかと、翌朝の窓の外を見て、ただ驚くばかりでした。

雪が一瞬止んだ朝の有馬温泉の町並み。白い屋根と山並みの上に光と雲が広がる冬の景色”
昼の有馬は、いつもの顔をしていた
有馬は、近い。だからこそ、気を抜いて行ける。
それなのに、足を踏み入れるとちゃんと“旅”になる不思議な町です。
石畳、坂道、湯けむり。甘い匂い。小さな店先の呼び込み。
この「ちょっとだけ非日常」が、呼吸を変えてくれる。

有馬温泉の温泉街。石畳の路地に人の流れがあり、湯けむりと観光地のにぎわいが混ざる昼の空気
ただ、今回は一つだけ、いつもと違う景色がありました。
金の湯が改装工事でしばらくお休み中だったこと。
(※訪問時点では、3月下旬まで休業予定との案内でした)
いつもなら前を通るだけで、あの場所の熱と人の気配に引っぱられるのに、入口は静かに眠っていました。
観光地の中心が“休んでいる”という事実が、町のテンポを少しだけ落ち着かせているようにも感じました。

有馬温泉の外湯『金の湯』の外観。改装工事による休業の雰囲気が伝わる風景
けれど、有馬の温泉は外湯だけじゃない。
各ホテルが温泉を引いていて、宿に入ればちゃんと“あの赤い湯”に会えます。
金の湯がお休みでも、金泉は消えない。そこが有馬の底力だなと思います。
ホテルで夜に入った金泉と、朝の金泉は、少し違っていました。
夜は暗さの中で湯の赤が深く見え、朝は雪の白と対比して、より鮮やかに映る。
同じお湯なのに、時間帯でこんなにも表情が変わるのかと、何度も湯面を眺めてしまいました。
銀の湯は通常営業。外湯に入りたい人は銀の湯へ――という選択肢もちゃんと残っていますよ。
夕食は外で。蕎麦の名店「土山人」へ
今回の夕食は、宿のレストランではなく外で食べました。最近は食が細くなり、バッフェは途中でギブしてしまう負け試合のようで・・笑
ということで、向かったのは蕎麦の名店「土山人」。芦屋本店によく通っているので、味も空気も、なんとなく身体が覚えているお店です。
旅行先で“いつもの好き”に会えると、気持ちがふっとほどけます。

有馬温泉の蕎麦店『土山人』の店先。温泉街の中に溶け込む落ち着いた佇まい
席は大きなテーブルで、相席になりました。
同じテーブルには台湾人の家族。旅の会話のリズムが、日本語とは違う音の粒で流れていて、それが心地よかった。
そして、私たちの巻きずしが運ばれてきた瞬間――その家族が注目。指さしであれ何?あれ欲しい、と店員に伝えていました。
目が合ったので、つい口が先に出ました。
「Good choice!」
英語として正しいかどうかより、その場の気持ちのほうが先。
向こうも笑って、私たちも笑って。たったそれだけのやりとりなのに、旅は急にあたたかくなります。

蕎麦屋でいただいた巻きずし。相席のテーブルで旅の空気が少しやわらいだ一皿
彼らの注文が届くと、ひとしきり撮影して、夢中で食べていました。
男の子は、食べることにまっすぐで、箸の動きが止まらない。
その様子を穏やかに見守るご両親。
旅先での食事は、その家族の空気まで伝わってくるものだなと、あらためて思いました。
私たちは蕎麦湯を待ちながら、なんとなく眺めていたのですが――ふと目が合い、サムアップ。
そして、彼らは微笑みながら蕎麦を追加注文。
「おいしい」は国境を越えるし、追加注文の動きはたぶん、世界共通の幸せのサインです。
有馬温泉がこんなに良いとは思わなかった、と話していた言葉が、どこか嬉しくて。(私、中国語わかるのですよ)
自分の好きな場所を、誰かが好きになってくれる瞬間に立ち会えたような気がしました。
会員制ホテルの夜は、余白が大きかった
宿に戻ると、空気が変わります。
会員制ホテルの“特別感”は、派手さではなく、音の少なさと余白の広さにある気がしました。
廊下の足音が遠い。話し声が尖らない。
「ここでは急がなくていい」という合図が、建物の中に散りばめられている。

会員制ホテルの客室。広いリビングと落ち着いた空間があり、時間がゆっくり流れる
そして温泉。
有馬の金泉は、身体にまとわりつくような重さがある。赤褐色の湯。鉄の匂い。湯上がりの肌が、薄い膜で守られるような感覚。
金の湯が休業中でも、宿の湯船にはいつもの赤い湯が満ちていて、「大丈夫、ちゃんと有馬だよ」と言われるようでした。
朝、雪。朝食前の“朝ぶろ”へ
翌朝。朝食の前に、朝ぶろへ。
その前にもう一度、窓の外を見ると――雪。
昨日までの景色が、まるごと静かな色に塗り替えられていました。

宿の窓から見た雪の有馬温泉。屋根が白くなり、町の輪郭がやわらいでいく冬の朝
雪の日の朝は、音が少ない。
車の音も、人の声も、雪が吸い込んでしまうみたいで。
「静けさ」って、こんなに形があるんだ、と初めて思いました。
完全雪見風呂。手すりの上に、小さな雪だるま
露天へ出た瞬間、息が少しだけ冷たくなります。
でも湯は温かい。湯気が立つ。
そして、手すりや目隠しの低い壁の上にも雪が積もっていました。
その雪の上に、小さな雪だるまが並んでいたんです。
宿の方か宿泊客が作ったのでしょうか。ちょこん、ちょこん、と。
湯気の向こうで、静かに笑っているみたいで、私も雪を集めて一つ横に並べてみました。
(露天風呂のため、写真は撮れずです。)
赤い金泉と白い雪。
温かさと冷たさ。
動く湯気と、積もっていく静けさ。
雪見風呂って、景色を楽しむものだと思っていたけれど、実際は「感覚のバランス」が整っていく体験でした。
朝食の前の朝ぶろは、いちばん贅沢だと思います。
これから一日が始まるのに、もう“ちゃんと休んだ”という感覚が先に来る。
心が先回りして落ち着いていく。
日帰りでは得られないのは、たぶんこの「朝の余白」でした。

雪が強く降り、視界が白くなる有馬温泉の朝。吹雪の中で町の輪郭が消えていく風景
雪の日のリアル。有馬はちゃんと動いていた
朝、出発前にホテルの売店でお土産を買おうとしたら、張り紙がありました。
「ショップの職員が雪のため来館できません。到着次第オープンします。」
ああ、そうか。
この雪は“景色”だけじゃないんだ、とそのとき初めて思いました。
朝食を終えて再び売店の前を通ると、オープンしている。
やっと到着したのかな、と中をのぞくと――レジに立っていたのはフロントの方でした。
きっと普段の業務とは違うはずなのに、自然に対応されている姿に、なんだか温かいものを感じました。
チェックアウト後、送迎バスを利用しようと受付へ向かうと、途中の道で一般車が道をふさいでいて、先に出たバスが立ち往生しているとのこと。
有馬温泉は高い位置にあるので、途中の道路状況が悪いのだろうと思い、私たちは駅まで歩くことにしました。
同じ坂道なのに、昨日とはまったく違う景色。
雪を踏みしめる音。白い屋根。ゆっくり進む時間。
結果的に、あの徒歩の時間がいちばん“有馬らしい記憶”になった気がします。
予定通りじゃなかったからこそ、見えた景色がありました。
金の湯が眠る冬でも、有馬はちゃんと温かい
金の湯は改装でお休み中。銀の湯は通常営業。
外湯に入りたい人は銀の湯へ、宿でじっくり金泉に浸かりたい人はホテルへ。
有馬は、過ごし方の選択肢が多いから、何度行っても自分に合う形に寄せていける気がします。

朝のホテルのロビー。冬の朝の雪景色
そして私は今回、
夜は蕎麦屋で台湾の家族と笑い合い、
朝は雪見風呂で小さな雪だるまに会い、
気づいたら、呼吸が深くなっていました。
まとめ:近いのに、ちゃんと旅になる場所
有馬温泉に一泊。雪見風呂。金の湯は休業中。
それだけでも十分に“冬の記憶”になるのに、土山人の相席で交わしたサムアップが、旅に温度を足してくれました。
整えに行ったわけではありません。
でも、赤い湯と白い朝と、あの「Good choice!」の笑い合いが、きっと私を整えてくれた。
有馬は近いのに、ちゃんと“戻れる場所”でした。
参考情報
金の湯・銀の湯の最新営業情報や改装状況については、公式サイトをご確認ください。


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