六甲山のふもとの病院で過ごしていた頃、朝はいちばん静かで、いちばんやさしい友人のようでした。
6時の起床時間。薄青い光が、まだ眠りをまとった病室にそっと忍び込んでくる。
わたしはその光に触れるようにカーテンを開け、
六甲の稜線へ向かって、心の中で小さく「今日もよろしくお願いします」と挨拶をする。
その一瞬だけは、痛みや不安をいったん外側に置いておける気がして、
自分の輪郭がふわりと戻ってくる──そんな時間でした。
昼食後に向かうフリースペースは、3つの建物をつなぐ空中回廊のような場所。
神戸の街並みも、自分の家も同じ窓枠の中に見えているのに、
確かに“日常の外側”にいるような不思議さがありました。
ひとりで、「なんだか旅先の朝みたいだなぁ」とこぼれた日も何度も。
あの朝の光を思い出すたび、今もそっと胸の奥でつぶやきます。
──旅に出られない日でも、人は“内側へ戻る小さな旅”ができるのだと。
今日は、そんな「家にいながら整う、ミニリトリートな朝時間」を、
あなたの手のひらにそっと置くような気持ちでお届けします。
なぜ“朝の光”は、心と体を静かに整えてくれるのか
朝日は、体内の小さな時計係をそっと起こす。
青みを帯びた朝の光に触れると、体の奥にいる小さな時計係が、そっと動きはじめます。
まるで「おはよう、今日もゆっくりいこうね」と声をかけてくれるように。
セロトニンとメラトニン──静かに寄り添う“小さな友人たち”。
朝の光にふれると、心の奥に住むセロトニンが目を覚まし、ゆっくり背伸びを始めます。
この子は“心を落ち着かせるのが得意な友人”のような存在。
そして夕方から夜にかけて、その一部がそっとメラトニンに姿を変えます。
メラトニンは、“眠りへと導くのが得意な夜担当の友人”。
日中の光に見守られながらセロトニンが働き、夜になるとメラトニンがそっと受け取る。
この静かな交代劇は、医学書の片隅にもひっそり書かれている、
わたしたちの体の中で毎日行われているリレーです。
光を見るだけで、心のスイッチがやさしく切り替わる。
朝の光を目に入れると、体は「そろそろ動き出そうか」とゆるやかに準備を始めます。
旅先で朝日を浴びると自然と深呼吸したくなるあの感覚も、
心と体のスイッチが静かにオンになる合図なのだと思うと、少し愛おしく感じられます。
六甲山の青い光がくれた安心感。
高台の病院の窓から差し込む光は、どこか守られているような深い青で、
その青さに身をゆだねると、胸の奥の冷たさがゆっくり溶けていく気がしました。
「今日もなんとかなるかもしれない」──そんな小さな希望を、そっと手渡してくれる光でした。
入院生活で見つけた“ミニリトリートな朝時間”の原型
病院の6時──世界が深呼吸する音がした。
静かな病棟に、ひとしずくずつ朝が満ちてくる。
モニターの電子音も、看護師さんの足音も、まだ遠くにあるような時間帯。
あの瞬間だけ、世界全体がゆっくり息を吸い直しているように感じていました。
カーテンを開けるという小さな儀式。
指先で布を引くだけの、ささやかな動き。
それなのに、胸の奥にぽっと灯りがともる。
「今日に触れた」という安心が、闘病中のわたしをそっと支えてくれた“自分に戻る合図”でした。
高台のフリースペースで見下ろす街。
自宅マンションの姿が見えているのに、世界は不思議と静かで、遠い。
身体は病院の椅子に座ったままなのに、心だけが深い場所へ戻っていく。
そこでわたしは気づきました。
「旅は外側ではなく、内側から始まる」のだと。
今日からできる。“ミニリトリートな朝時間”
ステップ1:窓際へ。動ける範囲で大丈夫。
ベッドの上でも、椅子でも、いちばん近い窓のそばへ。
しんどい朝でも続けられる、小さなやさしい習慣です。
「今日はここまで動けたね」と、自分をそっとねぎらうところから始めてみます。
ステップ2:光を“眺める”より“味わう”。
光をただ見るのではなく、温かい飲み物のようにひと口で味わうつもりで、ゆっくり深呼吸してみます。
鼻から吸って、胸いっぱいに光を広げて、口からそっと吐き出す。
そんな呼吸を繰り返すうちに、心の中のセロトニンという小さな友人が、やさしく動きだしてくれます。
ステップ3:朝にそっと挨拶をする。
「今日もよろしくお願いします」。
声にならなくても、心の中でそっとつぶやくだけで大丈夫。
その一言で、心がふわりと“いま”に戻っていきます。
調子が悪い日ほど、この小さな挨拶が、自分を責めない朝のスタートラインになってくれます。
旅に行けない日でも“旅の朝”を取り戻す
家にいながら旅気分に切り替わる小さなスイッチ。
旅先で撮った写真を一枚ひらいてみる。
温泉の香りがする入浴剤や、森林の香りのアロマを、朝の少しの時間だけそばに置いてみる。
お気に入りの景色のポストカードや、城跡の写真集をめくってみる。
それだけで、心はすこしずつ旅モードに切り替わっていきます。
竹田城跡や舞鶴の朝が残した“温度”。
あの風、あの青さ、あの静けさ。
雲海に浮かぶ竹田城跡の朝も、海の街・舞鶴のやわらかな光も、
一度自分の体で受け取った朝は、心の奥に“温度”として静かに残り続けます。
日常のなかでふと窓辺に立ったとき、その記憶がそっと背中を支えてくれることがあります。
心がすり減りそうな日の“朝の避難場所”
自宅に小さな“ミニリトリートスポット”を。
お気に入りの椅子、柔らかい膝掛け、馴染みの香り。
そのどれかひとつでもそろえば、そこはすでに小さな避難場所になります。
「ここにいていい」と思える場所を、自宅のどこかに一か所だけ決めておく。
それだけで、心は少しだけ楽になります。
光・音・匂い・温度の四つをそっと整える。
カーテンをほんの少しだけ開けて、やわらかな光を取り込む。
波の音や小鳥の声、好きなピアノ曲など、落ち着く音を一つ選んで流してみる。
ハーブティーやアロマ、柔らかな石けんのような、ほっとする匂いをそばに置く。
そして体を冷やさないように、膝掛けや靴下で自分を包む。
この四つがそろうだけで、心の回復はゆっくりと加速していきます。
弱っている日の“最低限ケアライン”。
どうしても動けない日こそ、5分だけ窓辺へ。
椅子に座るのも難しければ、ベッドの上でカーテンを少し開けるだけでもかまいません。
その5分が、今日のあなたを静かに守る見えないバリアになってくれます。
まとめ:旅は外へ。整いは、朝の光から。
病院で見つけた小さな朝の習慣は、
わたしの“整う旅”の原点になりました。
どれだけ疲れていても、どれだけ不安を抱えていても、
内側へ帰る道はつねに静かで、やさしくて、いつもそこにあります。
まずは、窓辺へ。
朝の光をひと口。
それだけで、今日のあなたが静かに整いはじめます。
朝の光と“心の友人たち”を支えてくれる静かな根拠
ここまでお話ししてきた、朝の光とセロトニン・メラトニンの“静かなリレー”は、
わたしの体験だけではなく、医学的な知見にもそっと支えられています。
たとえば、眠りを招くホルモンと呼ばれるメラトニンが、
食事からとるトリプトファンという成分をもとに、セロトニンを経て作られていること。
そして、その分泌が朝と夜の光の具合によって調整されていることは、健康情報サイトや専門家の解説にもまとめられています。
また、朝や日中の光に触れることが、
夜のメラトニンのリズムや眠りのリズムに影響する可能性があることも、
生理人類学などの分野で研究されています。
さらに、心療内科や睡眠医療の現場でも、
朝の光を浴びることが、体内時計を整え、メラトニンとセロトニンの切り替わりをスムーズにする
ひとつの方法として紹介されることがあります。
詳しい内容を知りたいときは、例えば次のようなページが参考になります。
厚生労働省 e-ヘルスネット|メラトニンについての解説
J Physiol Anthropol|光と体内リズムに関する研究の一例
こころみクリニック|光と体内時計・メラトニンのリズムについてのやさしい説明
※本記事は、筆者の一次体験と公的・専門的な情報をもとにした一般的な健康情報です。
体調や睡眠に不安がある場合は、自己判断で対応せず、必ず医療機関にご相談ください。
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