舞鶴音楽隊の音は、冬の空気を変えた|バレンタインデーに出会った特別な時間
2月14日、バレンタインデーの朝。
神戸の空は穏やかで、冬とは思えないほど温かい空気に包まれていました。
三宮から舞鶴へ──雪景色の境界を越える移動
三宮から高速バスに乗り、日本海側の舞鶴へ向かいます。
六甲の山並みを越え、丹波の山間部へ入ると、窓の外の景色が少しずつ変わっていきました。
そして、舞鶴が近づくにつれて、その変化は決定的なものになります。
雪が残っていたのです。
周囲の山々は白く染まり、高速道路の路肩には、明らかに数十センチはあると思われる雪が積もっていました。
体感では、50センチほどはあったようにも見えました。
以前、海上自衛隊の隊員の方が「兵庫県の日本海側と比べると、舞鶴はそれほど雪は積もりませんよ」と話していたのを思い出しました。
しかし、目の前の景色は明らかに違いました。
「むっちゃ降ってるやん!!」
思わず心の中でそうつぶやいていました。
同じ関西圏でありながら、ここは明らかに違う気候と時間を持つ場所でした。

東舞鶴の空気──港町の時間がゆっくり流れている
東舞鶴駅前でバスを降り、舞鶴市総合文化会館へ向かって歩きます。
東舞鶴の街は、神戸とは明らかに違う空気を持っていました。
駅前は決して大都市のような賑わいではありませんが、その静けさがかえって印象的でした。
港町特有の、ゆっくりとした時間の流れ。
急ぐ必要のない場所であることが、自然と伝わってきます。
舞鶴は、旧海軍の拠点として発展し、現在も海上自衛隊の重要な基地が置かれている街です。
街の空気そのものに、長い年月の積み重ねが静かに存在しているように感じられました。
観光地のような派手さはありませんが、その分、この街は本来の姿のまま存在しているように思えました。

海軍の街に残る記憶──老舗和菓子店「勇貫堂」へ
途中、江戸時代創業の老舗和菓子店「勇貫堂」に立ち寄り、東郷平八郎元帥が愛したとされる栗饅頭を購入しました。
海軍の街・舞鶴の歴史に、静かに触れる瞬間でした。

舞鶴市総合文化会館へ──地域に開かれた音楽隊
会場に到着すると、すでに多くの人が集まっていました。
開演前のロビーは、穏やかで温かい雰囲気に包まれていました。
子供連れの家族も多く、舞鶴地方総監部のマスコットキャラクターであるマイチとマイコが登場すると、子供たちが集まり、記念撮影で盛り上がっていました。
その光景は、厳格な自衛隊のイメージとは少し違う、地域に開かれた存在としての音楽隊の姿を感じさせるものでした。
ロビーで広報の方とも偶然お会いすることができました。
防衛モニターとして舞鶴に通う中で、何度もお世話になってきた方です。
実は、この日のためにオオバコのチョコクッキーを用意していました。
バレンタインデーということもあり、広報部の皆さんで召し上がっていただければと思っていたのです。
「バレンタインデーなので、皆さんでどうぞ」
そう言って無事にお渡しすることができました。
お会いできるかどうかはわからなかっただけに、この偶然の再会は本当に嬉しいものでした。

舞鶴音楽隊は、他の大規模基地の音楽隊と比べると、比較的こじんまりとした編成です。
しかし、その分、地域との距離が近く、会場の雰囲気も身内の集まりのような温かさがありました。

舞鶴音楽隊の演奏──誠実で温かい音
やがて開演の時間を迎え、演奏が始まりました。
金管楽器の響きは、冷たい冬の空気の中でより鮮明に感じられました。
音が空間に広がり、そして静かに消えていく。
その一連の流れが、とても自然でした。
無理に力を込めるのではなく、音そのものが持つ力を信じているような演奏でした。
隊員一人一人の動きにも無駄がなく、そのすべてが調和していました。
日々の訓練の積み重ねが、この音を作っているのだと感じました。
その音は、誠実でした。
決して圧倒的な音量ではありませんが、一音一音が丁寧で、空間に自然に溶け込んでいきます。
特に印象に残ったのは「動物の謝肉祭」です。
演奏中、犬に扮した隊員が登場し、吠えながらステージを走り回るというユーモアあふれる演出がありました。
会場からは笑いが起こり、子供たちも目を輝かせて見入っていました。
単なる演奏ではなく、観客と空間を共有するための工夫が随所に感じられました。

そして、演奏会は終盤を迎えます。
サプライズ登場──会場の空気が変わった瞬間
アンコールの拍手が続く中、アナウンスが流れました。
「本日はスペシャルゲストにお越しいただいております」
「小林幸子さんです」
その瞬間、会場から「えーーーー!」「ウソー!!」という驚きの声が一斉に上がりました。
ステージに現れたのは、紛れもなく本人でした。
キラキラと輝く衣装。
その存在感だけで、空間が変わります。
そして始まった「思い出酒」。
その歌声は、会場全体を包み込みました。
それまで温かく穏やかだった空間が、一瞬で特別な空間へと変わりました。
観客の視線はすべてステージに集中し、誰一人として席を立つ人はいませんでした。
最後まで、全員がその瞬間を見届けていました。

舞鶴で整う──音楽が残した静かな余韻
演奏会が終わり、外へ出ると、舞鶴の夕暮れは静かでした。
しかし、自分の中には確かな余韻が残っていました。
舞鶴という街で過ごしたこの時間は、確かに特別なものでした。
遠くへ行く必要はありません。
ただ、その土地の空気に身を置くだけで、人は少し整うことができるのかもしれません。
帰り道、東舞鶴駅へ向かって歩きながら、先ほどの演奏を思い返していました。
街は静かで、日常の夜の姿に戻っていました。
しかし、自分の中には、確かに何かが残っていました。
それは音そのものではなく、その時間の記憶でした。
舞鶴で過ごしたこの一日は、単なるイベント参加ではなく、自分の中に静かに積み重なる体験となりました。
またこの街を訪れる日が来ることを、自然に思っていました。
舞鶴という街は、不思議な静けさを持っています。
大きな観光地のような華やかさがあるわけではありません。
しかし、その代わりに、ここには確かに「日常のままの時間」が存在しています。
港町としての歴史、海上自衛隊の基地としての役割、そしてそこに暮らす人々の生活。
それらすべてが無理に主張することなく、自然な形で共存しているように感じられます。
今回の演奏会もまた、その一部でした。
音楽は特別なものでありながら、この街の空気の中では、どこか日常の延長のようにも感じられました。
だからこそ、その時間はより深く心に残ったのかもしれません。
舞鶴で過ごしたこの一日は、自分の中に静かに積み重なり、これからも長く残り続けるように思えます。
また、あの静かな港町の空気に触れたくなったとき、自然とこの街へ足を運ぶのだろうと感じています。

合わせて読みたい
参考資料
海上自衛隊 舞鶴地方隊 オフィシャルサイト
https://www.mod.go.jp/msdf/maizuru/
舞鶴観光ネット「御菓子司 勇貫堂」
https://maizuru-kanko.net/archives/shop/477
京都交通株式会社(三宮-舞鶴 高速バス路線案内)
https://www.kyotokotsu.jp/highway/course/maizuru-kobe.html


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