伊賀上野城と忍者の町を歩く|神社から始まる“整う一日旅”

穴穂宮神戸神社(伊賀上野)の鳥居 心を整える旅

静かな神社から旅が始まった

旅に出たい気持ちはあるのに、遠くへ行くほどの元気はない。
そんな日が、私はわりと多い。

「どこかへ行けば元気になる」と頭ではわかっていても、心が追いつかないときがある。
ひとりで知らない場所へ向かうことが、楽しみよりも先に、少しだけ負担に感じるときがある。

だから最近の私は、旅の入口を変えるようになりました。
目的地を“観光名所”から決めるのではなく、まずは「空気が変わる場所」から始める。
その日も私は、まさにそういう気分でした。

伊賀上野といえば伊賀上野城。忍者の里。
名前だけなら何度も聞いたことがある場所です。

でもその日の旅は、お城からではなく、ひとつの神社から始まりました。
写真を撮って、Googleの口コミに投稿したら、思っていたより多くの人に見てもらえた神社です。
きっと私だけじゃなく、あの場所の静けさに「何か」を感じた人がいたのだと思います。


小さな神社なのに、空気がすっと澄んでいた

伊賀上野城からほど近い場所にある、穴穂宮神戸神社(あなほのみや かんべじんじゃ)。
大きな観光施設のような派手さはありません。

むしろ、田んぼの景色の中にふっと現れるような、こぢんまりとした神社です。
「え、ここで合ってる?」と一瞬だけ思うくらい、静かで控えめ。

でも、鳥居をくぐった瞬間に感じました。
ここは、ちょっと空気が違う。

神社という場所には、それぞれ“音の少なさ”があります。
車の音が遠のいたり、人の気配が薄くなったり。
同じ地域にあるはずなのに、その一角だけ、時間の流れが少し変わるような感覚です。

穴穂宮神戸神社は、まさにそのタイプでした。
深呼吸すると、胸の奥のざわつきが、少しずつほどけていく。

私は神社に来ると、願い事をたくさん並べるというより、「整える」ほうが先にきます。
お願いをするためではなく、いったん自分を静かにするために来ているのだと思います。

境内には、式年遷宮にまつわる話や、特別な由来もあるとされ、どこか背筋が伸びるような雰囲気もありました。
それでいて、緊張するほど厳しい空気ではなく、ちゃんと受け入れてくれる感じがある。
だから私は、安心して立ち止まれました。

そしてここ、余談ではあるのですが……。
社務所の猫が、驚くほど人懐っこいんです。

その“人間に慣れた距離感”が、ちょうど良い。
構えずに見ていられる。
旅先でふっと笑ってしまう瞬間があると、気持ちの硬さがほどけますね。

神社はパワースポットと言われることが多いけれど、私にとっては「戻ってこられる場所」です。
エネルギーをもらう、というより、余計な力みを手放して、自分の輪郭を取り戻す。
この旅は、ここから始まってよかったと心から思いました。


伊賀上野城は、“白さ”と“高さ”が印象に残る城だった

神社で心の芯が静まったあと、私は伊賀上野城へ向かいました。
伊賀上野城は、白壁の天守が空に映える、美しい城です。

お城というと「歴史を学ぶ場所」でもあるけれど、私の場合はまず「姿」に反応します。
見た瞬間に、気持ちが動くかどうか。
その日の伊賀上野城は、すっと気持ちを上向きにしてくれました。

伊賀上野城は1585年に築城された平山城とされ、筒井定次によって築かれたのち、藤堂高虎によって改修された歴史があります。
江戸時代には藤堂家の居城として栄えた城です。

現在の天守は1935年に再建された復興天守ですが、城の魅力は「復元された天守」だけではありません。
私がいちばん記憶に残ったのは、石垣の存在感です。


見上げた瞬間、言葉が止まる。“高石垣”の迫力

伊賀上野城の本丸石垣は、藤堂高虎によって築かれた当時の姿を今に伝えているといわれています。
そして東側の高石垣は、堀底から天端まで約30メートル。全国でも屈指の高さです。

石垣の魅力って、説明するのが意外と難しい。
でも、見上げたらわかります。
これは「守るため」だけのものではない。

圧があるんです。圧倒的に。

石垣を見ていると、頭の中の雑音が止まります。
仕事のこと、やらなきゃいけないこと、返信しなきゃいけない連絡。
そういう“細かい思考”が、石垣の前では意味を失う。

人間の悩みなんて、ちっぽけだな。
……とまでは言わないけれど、少なくとも「いま考えなくていいこと」が整理される。

石垣の隅角部に見られる算木積み(さんぎづみ)は、石を縦横に組み合わせ、隅を強固にする技術。
隙間が生まれにくく、重圧を分散する構造で、地震や大雨にも耐えやすいとされています。

積み方にも特徴があり、打込接ぎ(うちこみはぎ)と呼ばれる技法で、下部から上部へ向かって傾斜をつけて積み上げていく。
見た目の迫力だけでなく、理にかなった強さがあるからこそ、四百年以上の時を超えて、いまも形として残っているのだと思います。

私は石垣の前で、しばらく立ち止まりました。
観光で“立ち止まる時間”って、意外と少ない。
でもこの石垣は、止まらせる力がある。

派手な感動ではなく、静かな圧倒。
こういう時間があると、旅は「消費」じゃなく、「回復」になる気がします。


忍者の里は、“子ども向け”では終わらない面白さがあった

伊賀上野という地名を聞いて、忍者を思い浮かべない人は少ないかもしれません。
伊賀流忍者は、伊賀の文化そのものとして語られ続けています。

伊賀流忍者博物館や忍者屋敷では、忍者の仕掛けや暮らしの知恵を体験できます。
観光として楽しいのはもちろんですが、大人になってから見る忍者文化は、また違う面白さがありました。

忍者って、派手な戦闘のイメージが先に来るけれど、本質は「生き延びる技術」なのだと思います。
情報を集める。姿を変える。気配を消す。必要なら逃げる。
ある意味、現代の私たちが日々やっている“気疲れ”の技術と似ています。

だからこそ、忍者の里を歩いていると、少しだけ自分の暮らしを見直したくなる。
無理に正面突破しなくてもいい。
一歩引いて整えることも、立派な戦略だと思える。

伊賀は、そういう視点をくれる町でした。


伊賀上野の味は、旅の余韻を現実に戻してくれる

旅の最後に、ちゃんと“食べる”時間があると、心が落ち着きます。
伊賀といえば伊賀牛。城下町には伊賀牛を扱うお店も多く、観光案内所でもたくさん紹介されていました。

あれだけ名前が出てくると、どこに入ってもきっと正解なんだろうな、と思えてきます。
観光って、迷うことも楽しいけれど、選択肢が多すぎると疲れてしまう。
伊賀上野は“選んで失敗する感じ”が少ない町だと感じました。

伊賀米や地元の野菜、伊賀うどんなど、派手さはなくても、しっかりと暮らしに根づいた食がある。
それが城下町らしくて、とても良かったです。

そして和菓子。桔梗屋織居の「おかゆ大福」の話を読んだとき、私はなぜか心が温かくなりました。
口溶けの良さ、喉につまらない配慮。
それは単なる名物というより、“この町のやさしさ”みたいなものだと思いました。

 

ご紹介した「おかゆ大福」が気になる方は、お店のホームページをお訪ねください。
御菓子処 桔梗屋織居|おかゆ大福


伊賀上野は、整う要素が静かに揃っている町だった

伊賀上野城は、立派なお城です。忍者文化も、観光として魅力的です。
でもこの町の良さは、たぶんそれだけじゃない。

神社の静けさ。猫の距離感。
石垣の圧倒。白い天守の清潔感。
忍者文化の遊び心。城下町の暮らしの匂い。
そして伊賀牛の現実的なおいしさ。

派手な刺激があるわけではないのに、気づけば心が軽くなっている。
そういう“整う旅”ができる町でした。

遠くへ行かなくてもいい日がある。
大きな旅じゃなくていい日がある。
そのかわり、ちゃんと空気が変わる場所へ行く。

伊賀上野は、そんな旅の選択肢にぴったりでした。

春は桜、秋は紅葉。石垣と天守の景色は、季節で表情が変わるはずです。
そしてまた疲れたら、私はあの神社から旅を始めたいと思います。

伊賀上野城と忍者の里を訪れる方の参考になればうれしいです。
これからも、Aline Life Travelで「整う旅」を少しずつ増やしていきます。

参考リンク(公式)

一般社団法人 伊賀上野観光協会(公式)
伊賀上野城(公式)

※穴穂宮神戸神社は公式サイトが見当たらなかったため、現地参拝時の体験と写真をもとに紹介しています。

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